セメント
1.役割
テレビドラマ等で、建設現場が背景の場面において、生コンアジテータ車が走行しながら、袋セメントを運んでいるシーンを見ることがあります。これは、コンクリートとセメントを混同して認識している方が多くいるためではないかと思います。この両者は、工業製品ですが次のとおり“おなじモノ”ではありません。
セメント :石灰石と粘土類等を混合して、焼成したものに石膏を添加して粉砕した粉末
モルタル :セメント,砂,に水を加えて混錬したもの
コンクリート:セメント,砂,砂利に水を加えて混錬したもの
なお、コンクリート材料の中においてセメントは、“のり”の働きをします。セメントは“こな(粉)”ですが、砂と水を加えて練混ぜると“のり(モルタル)”となり、砂利と砂利の間を埋めて接着します。
2.国産工業製品?
例えば、鉄は、国内で製造をしていますが、原料の鉄鉱石や熱源となる燃料は輸入しています。一方、セメントは、鉄と同様に熱源となる燃料(石炭)は輸入していますが、主原料(石灰石,粘土)はすべて国内で賄えます。これは、わが国が火山帯であるため、炭酸カルシウム純度の高い石灰石が豊富に採掘できるからです。つまり、資源が少ないわが国で自給率100%の原料をもつ工業製品なのです。
3.セメントの作り方
セメントはどこか山野を深く掘って得られる物質と思っている方がいるようですが、専用の工場で作られている工業製品なのです。セメントは、石灰石や粘土等を粉砕混合する原料工程,半製品であるクリンカーを焼く工程と、焼成したクリンカーに石膏を加えて粉砕する工程を過ぎると、あの灰色の粉になります。
http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jd3.html
また、セメント製造は、近年、産業廃棄物の処理に大きく貢献しています。クリンカーの焼くためには、約1450℃の高温が必要となり、有害物質を含む産業廃棄物もこの高温に晒されると化学反応により別の無害で安全な物質に転化する事ができるからです。なお、狂牛病感染が疑われたあの肉骨粉も、クリンカー焼成過程で処理されました。
4.乾くと固まる?
工作を思い出してください。のりを使って折紙と折紙をくっつける場合、離れなくなった状態を“乾いた”と言いますよね。土木・建築現場においても、コンクリートが硬化する様を“乾く”と表現する事があります。このため、セメントが固まるのは、のり状から水分が蒸発するためと認識している方がいますが、これは間違いです。セメントが水と出会うと、セメントを構成するクリンカー鉱物と称する主要化合物が化学反応を起こして違う物質に変容して固まるのです。
5.セメントの種類
土木建築用に使用するJIS化されたセメントは、ポルトランドセメント,混合セメント,エコセメントに大別されます。ポルトランドセメントはクリンカー鉱物の構成比等によって、さらに6種類存在します。混合セメントは、ポルトランドセメントに製鋼所で発生する高炉スラグや、火力発電所で発生する石炭灰等の副産物を添加したセメントです。
http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jd2.html
一般に土木・建築工事で使用される各セメントの構成比は次のとおりですが、普通ポルトランドセメントと高炉セメントB種が大半を占めています。
セメントの品種別生産割合 | (単位:%) | |||||||||||
ポルトランドセメント | 混合セメント | 合計 | ||||||||||
普通 | 早強 | 中庸熱 | 耐硫酸塩 | 低熱 | 小計 | 高炉 | シリカ | フライアッシュ | その他 | 小計 | ||
2005年度 構成比 |
71.0 | 4.5 | 1.2 | 0.0 | 0.3 | 76.9 | 22.2 | 0.0 | 0.3 | 0.6 | 23.1 | 100 |
6.化学成分・主要鉱物
いずれのセメントも、酸化カルシウム,二酸化けい素,酸化アルミニウム,酸化第二鉄を主要化学成分とし、これらがクリンカー鉱物を構成しています。
各種セメントの化学成分結果 | |||||||||||||||
化 学 成 分 (%) | |||||||||||||||
Ig.loss | insol. | SiO2 | Al2O3 | Fe2O3 | CaO | MgO | SO3 | Na2O3 | K2O | TiO2 | P2O5 | MnO | Cl- | ||
ポルトランドセメント | 普通 | 1.78 | 0.17 | 21.06 | 5.15 | 2.80 | 64.17 | 1.46 | 2.02 | 0.82 | 0.42 | 0.26 | 0.17 | 0.08 | 0.021 |
早強 | 1.18 | 0.10 | 20.43 | 4.83 | 2.68 | 65.24 | 1.31 | 2.95 | 0.22 | 0.38 | 0.25 | 0.16 | 0.07 | 0.005 | |
中庸熱 | 0.37 | 0.13 | 22.97 | 3.87 | 4.07 | 64.10 | 1.33 | 2.03 | 0.23 | 0.41 | 0.17 | 0.06 | 0.02 | 0.002 | |
低熱 | 0.97 | 0.05 | 26.29 | 2.66 | 2.55 | 63.54 | 0.92 | 2.32 | 0.13 | 0.35 | 0.14 | 0.09 | 0.06 | 0.003 | |
高炉セメント | B種 | 1.51 | 0.21 | 25.29 | 8.46 | 1.92 | 55.81 | 3.02 | 2.04 | 0.25 | 0.39 | 0.43 | 0.12 | 0.17 | 0.005 |
フライアッシュセメント | B種 | 1.91 | 13.37 | 18.76 | 4.48 | 2.56 | 55.28 | 0.82 | 1.84 | 0.11 | 0.30 | 0.23 | 0.12 | 0.05 | 0.003 |
エコセメント | 普通 | 1.05 | 0.12 | 16.95 | 7.96 | 4.40 | 61.04 | 1.84 | 3.86 | 0.28 | 0.02 | 0.71 | 1.11 | 0.11 | 0.053 |
セメントは水と出会うと、化学変化を起こしますが、各クリンカー鉱物の反応は次のとおりです。
名称 | 分子式 | 略号 | 特性 | 水和反応式 | ||||
水和反応速度 | 強度 | 水和熱 | 収縮性 | 化?? 学 抵抗性 |
||||
けい酸三カルシウム | 3CaO・SiO2 | C3S | 比較的速い | 28日以内の早期 | 中 | 中 | 中 | 2C3S+6H2O→3CaO・2SiO2・3H2O+3Ca(OH)2 |
けい酸二カルシウム | 2CaO・SiO2 | C2S | 遅い | 28日以後の長期 | 小 | 小 | 大 | 2C2S+4H2O→3CaO・2SiO2・3H2O+Ca(OH)2 |
アルミン酸三カルシウム | 3CaO・Al2O3 | C3A | 非常に速い | 1日以内の早期 | 大 | 大 | 小 | 3CaO・Al2O3+3[CaSO4・2H2O]6H2O→3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O |
3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O+H2O→3CaO・Al2O3・CaSO4・12H2O | ||||||||
3CaO・Al2O3+6H2O→3CaO・Al2O3・6H2O | ||||||||
鉄アルミン酸四カルシウム | 4CaO・Al2O3・Fe2O3 | C4AF | かなり速い | 強度にほとんど寄与しない | 小 | 小 | 中 | 4CaO・Al2O3・Fe2O3+10H2O+Ca(OH)2→3CaO・Al2O3・6H2O+3CaO・Fe2O3・6H2O |
7.規格はあるの?
セメントは、工業製品ですから規格が存在します。代表的なセメントの日本工業規格を次に示します。
代表的なセメントのJIS規格 | |||||||||||
項目 種類 | ポルトランドセメント JISR5210 | 高炉セメント JISR5211 | シリカセメントB JISR5212 | フライアッシュセメント JISR5213 | エコセメント JISR5214 | ||||||
普通 | 早強 | 中庸熱 | 低熱 | B種 | B種 | B種 | 普通 | 速強 | |||
比表面積 (㎝2/g) |
2500以上 | 3300以上 | 2500以上 | 2500以上 | 3000以上 | 3000以上 | 2500以上 | 2500以上 | 3300以上 | ||
凝結 | 始発(min) | 60以上 | 45以上 | 60以上 | 60以上 | 60以上 | 60以上 | 60以上 | 60以上 | - | |
終結(h) | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 10以下 | 1以下 | ||
安定性 (パット法) |
良 | 良 | 良 | 良 | 良 | 良 | 良 | 良 | 良 | ||
圧縮強さ (N/㎜2) |
1日 | - | 10.0以上 | - | - | - | - | - | - | 15.0以上 | |
3日 | 12.5以上 | 20.0以上 | 7.5以上 | - | 10.0以上 | 10.0以上 | 10.0以上 | 12.5以上 | 22.5以上 | ||
7日 | 22.5以上 | 32.5以上 | 15.0以上 | 7.5以上 | 17.5以上 | 17.5以上 | 17.5以上 | 22.5以上 | 25.0以上 | ||
28日 | 42.5以上 | 47.5以上 | 32.5以上 | 22.5以上 | 42.5以上 | 37.5以上 | 37.5以上 | 42.5以上 | 32.5以上 | ||
91日 | - | - | - | 42.5以上 | - | - | - | - | - | ||
水和熱 (J/g) |
7日 | - | - | 290以下 | 250以下 | - | - | - | - | - | |
28日 | - | - | 340以下 | 290以下 | - | - | - | - | - | ||
酸化マグネシウム(%) | 5.0以下 | 5.0以下 | 5.0以下 | 5.0以下 | 6.0以下 | 5.0以下 | 5.0以下 | 5.0以下 | 5.0以下 | ||
三酸化硫黄(%) | 3.0以下 | 3.0以下 | 3.0以下 | 3.5以下 | 4.0以下 | 3.0以下 | 3.0以下 | 4.5以下 | 10.0以下 | ||
強熱減量(%) | 3.0以下 | 3.0以下 | 3.0以下 | 3.0以下 | 3.0以下 | - | - | 3.0以下 | 3.0以下 | ||
全アルカリ(%) | 0.75以下 | 0.75以下 | 0.75以下 | 0.75以下 | - | - | - | 0.75以下 | 0.75以下 | ||
塩化物イオン(%) | 0.035以下 | 0.02以下 | 0.02以下 | 0.02以下 | - | - | - | 0.1以下 | 0.5以上 1.5以下 |
||
けい酸三カルシウム(%) | - | - | 50以下 | - | - | - | - | - | - | ||
けい酸二カルシウム(%) | - | - | - | 40以上 | - | - | - | - | - | ||
アルミン酸三カルシウム(%) | - | - | 8以下 | 8以下 | - | - | - | - | - | ||
結合材の分量(%) | 5以下 | - | - | - | 30を超え60以下 | 10を超え20以下 | 10を超え20以下 | - | - |
8.ポルトランドセメントの出生地はどこ?
名前から想像すると、カステラの国ポルトガルのように思われますが、ポルトガルではありません。それを開発して特許を所得したのは、イギリスのレンガ職人“ジョセフ・アスプジン”なる人物です。つまり、セメントは、石造り文化を持つヨーロッパのイギリスが出生地(1824年生れ)なのです。名前の由来は、固まった後(硬化後)の状態が、当時イギリスで建築資材として使用していたポルトランド島の石材に似ていたためといわれています。なお、ヨーロッパが発祥ですが、日本のセメント製造技術は世界1と言われています。